タバコと歯周病のリスク
喫煙は歯周病の最大リスク因子
喫煙は環境面での歯周病の最大のリスク因子として有名です。
タバコの煙には数千もの化学物質が含まれていて、そのうちニコチンや発癌性物質などの有害物質は200とも300とも言われます。
タバコの煙に含まれる「一酸化炭素」と「ニコチン」、「タール」の影響
では、タバコの煙に含まれる有害物質には、口腔内に与える影響はどのようなものがあるのでしょうか?
まず、タバコの煙に含まれる「一酸化炭素」は組織への酸素供給を妨げます。
「ニコチン」は依存性のある一種の神経毒で、血管を縮ませるので、体が酸欠・栄養不足状態になります。また免疫の機能を低下させるので、病気に対する抵抗力が落ちたりアレルギーが出やすくなります。更に傷を治そうと組織を作ってくれる細胞の働きまで抑えてしまいます。
「タール」は歯面に付着し、バイオフィルムの形成促進をするとともに発癌性物質でもあります。これらの有害成分は口腔内に付着し、歯茎や口腔組織に悪影響を与えることがあります。例えば、タバコの煙中に含まれる化学物質は、口腔内の細菌バランスを崩し、歯周病のリスクを高めることがあります。
以上のように、タバコは歯周病のリスクを増加させる可能性があります。口腔内の健康を維持するためには、喫煙を控えることが重要です。
引用:沼部幸博(2003),歯周組織に対する喫煙の影響,日歯周誌45(2),133-141
タバコはどれくらいの歯周病リスクがあるのか?
図5のようにタバコにより口腔内に悪影響を及ぼします。では具体的にどれくらいのリスクとなるのでしょうか。
米国全国民健康栄養調査 (1988~1994)において、米国のこの調査では歯周病の原因の52.8%が喫煙だと推定されています。非喫煙者と比較して、喫煙者の場合、歯周病のリスクは3.97倍でした。
また1日の喫煙量が多くなるほどリスクも上昇し、1日9本以下の喫煙者では2.79倍であるのに対して、1日31本以上の喫煙者では5.88倍でした。喫煙と歯周病は量依存性の関係があることが分かります。
2018年にアメリカ歯周病学会にて発表された歯周病の新分類によると、喫煙者でも1日10本未満と10本以上ではリスクに差があります。禁煙は難しいと思われている方、減煙でも歯周病には効果があります。歯周病が進行しないようにまずは1日10本未満を目標に減煙を目指していきましょう。
また、歯周病に罹患した場合、歯周病治療が必要となりますが、喫煙していた場合、歯周病治療に対する効果が低くなることも知られています。歯周基本治療や歯周外科治療に対する効果が25~50%程度低下すると言われています。しかし、禁煙により歯周病治療に対する効果が改善することも示されています。
歯周病にならないための禁煙、歯周病を進行させないための禁煙が重要となってきます。またインプラント治療に対しても非喫煙者よりも2倍の失敗率となります。インプラントを考えておられる方も禁煙をお勧めします。
禁煙はどのくらい歯周病のリスクを減らすのか?
では、実際にどれぐらい禁煙すればいいのでしょうか?
喫煙者平均の歯周病リスクは非喫煙者の3.97倍、禁煙期間が2年以内だと3.22倍となり、禁煙を続けていくとリスクはだんだんと低下していき、禁煙11年を超えるとリスクは1.15倍とほぼ非喫煙者と変わらなくなります。禁煙が難しい方は減煙から開始して、少しずつ歯周病リスクを減らしていきましょう。
歯周病の最大のリスク因子は喫煙とお伝えしました。その原因はタバコに含まれる有害物質によります。
新型タバコ(加熱式タバコ、電子タバコ)と歯周病
では、上記で述べた「ニコチン」や「タール」、「一酸化炭素」などの有害物質がないタバコであれば問題ないのでしょうか?
現在、紙巻タバコ以外に、加熱式タバコ、電子タバコが販売されています。加熱式タバコはメーカーにもよりますが、紙巻タバコよりもタールは少ないですが、ニコチンは依然として含まれています。電子タバコは日本産であればニコチンもタールも含んでいないようです。
歯周病にとって、紙巻タバコの代わりに加熱式タバコや電子タバコを使用してもいいのでしょうか?
より具体的に調べていきたいと思います。
新型タバコの口腔内への影響
加熱式タバコや電子タバコは、紙巻きたばことは異なる方法でたばこを摂取します。
加熱式タバコや電子タバコにはニコチンが含まれており、ニコチンには依存性があります。また、加熱式タバコや電子タバコの一部にはタバコ葉が使用されており、タバコ葉に含まれる有害成分が蒸気に含まれる可能性があります。
紙巻きたばこと比較して、加熱式タバコや電子タバコは有害成分の量が減少する可能性がありますが、それでも完全に無害ではありません。
①まずは加熱式タバコはどうでしょうか?
以下が、厚生労働省にて公開されている研究データです
加熱式タバコに対する運営委員会緊急声明(改訂版)平成29年10月16日日本禁煙推進医師歯科医師連盟
① 「加熱式タバコ」はタバコ葉を使用したタバコ製品であり、タバコ葉を使用しない「電子タバコ」と混同して論じるべきではありません
② 現段階までに得られた科学的知見からは、喫煙者本人に対しても受動喫煙についても、加熱式タバコと紙巻きタバコを比較して害の大小を論じることはできません
③ 加熱式タバコの使用は、ニコチン依存症からの脱却(紙巻きタバコも加熱式タバコも吸わない状態)を阻害し、タバコによる健康被害をなくす機会を喪失ないし遅らせている可能性があります
④ ニコチンによって生じる脳の報酬回路不全(依存症)や健康被害を軽視するべきではなく、全てのニコチン含有製品は規制するべきです
⑤ 受動喫煙の防止のため、加熱式タバコも紙巻きタバコと同様に規制する必要があります
加熱式タバコや電子タバコが口腔の環境に与える影響についてはまだ十分に研究されていないため、明確な結論が出ていませんが、以下については、加熱式タバコや電子タバコが歯周病や口腔の状態に与える可能性のある影響や関連する事実です。
加熱式タバコに関する口腔9学会合同脱タバコ社会実現委員会の注意喚起について(2022年1月7日)
1.加熱式タバコには多くの有害化学物質が含まれています。
2.紙巻きタバコと比較して加熱式タバコの健康影響が少ないかどうかは明らかではありません。
3.加熱式タバコの使用は禁煙を阻害する可能性があります。
以上から、加熱式タバコも歯周病にとってはよくないことが分かります。
②次に電子タバコはどうなのでしょうか?
米医学誌『Journal of Clinical Investigation』に2019年9月4日に発表されたマウス研究の結果では、電子タバコによりマウスの肺の免疫系が機能不全に陥ったと報告されています。ニコチン、タールを含まない電子タバコでも健康被害の可能性があります。
厚生労働省でも注意喚起が出ています。また、米科学雑誌「mBio」に2022年2月22日に発表された米ニューヨーク大学の研究では電子タバコもやはり歯周組織にダメージを与えると報告されています。
電子たばこの注意喚起以上から、電子タバコも健康面および口腔内にとって良くないことが分かります。
タバコを止めて改善する口腔内について
禁煙を始めるためには?
禁煙を始めるには、まずは意志を固めることが重要です。タバコをやめる理由を明確にし、自分自身に禁煙のメリットを理解することが大切です。
また、禁煙に向けての具体的な目標を設定し、取り組むことも有効です。禁煙補助具や禁煙クリニックの利用も検討してみましょう。禁煙をサポートしてくれる人やグループに参加することも励みになります。
禁煙後の口腔内の変化
禁煙をすると、口腔内の状態が改善されることがあります。喫煙によって引き起こされる口腔内の問題、例えば口臭や歯の着色、口内炎などが減少することが報告されています。また、タバコの影響で歯周病の進行が促進されている場合、禁煙によって歯周病の進行を止めることができる可能性もあります。
しかし、禁煙後も歯周病の治療や予防には十分な注意が必要です。口腔衛生の維持や定期的な歯科検診を行うことで、自然な歯周病の改善を促すことができます。歯科医師のアドバイスを受けながら、禁煙と口腔の健康を同時に実現することが理想的です。
以上のことから、タバコをやめることは歯周病の改善や口腔内の健康を目指す上で非常に重要です。禁煙によって口腔内の環境を改善し、健康的な口腔を保つためには、まずは禁煙を始めることが大切です。
まとめ
タバコと歯周病の関係について、喫煙が口腔内の健康問題を引き起こすことがわかりました。ニコチンやタールなどの有害成分が口腔に悪影響を及ぼし、歯周病のリスクを高める可能性があります。
加熱式タバコや電子タバコについても歯周病や口腔の状態に影響を及ぼす可能性があることを念頭におき、口腔の健康を守るためには禁煙が重要です。禁煙を始めるためのステップを踏みながら、口腔内の環境の改善を図りましょう。
ただし、加熱式タバコや電子タバコの口腔への影響についてはまだ研究の途上であり、個人によって異なる可能性があるため、口腔の健康を気にされる方は歯科医師や専門医に相談することが重要です。また、禁煙を目指す場合には歯科医院でのメインテナンスを受けつつ、口腔の健康を維持することが大切です。